相続STORY通信 Vol.3 全ての遺産を家政婦に
2016.03.18更新
家政婦 VS 実の娘 遺産はどちらの手に?
先月、家政婦と実の娘2人が争っていた遺産相続訴訟の判決が東京地裁であり、言い渡されたのは家政婦の全面勝訴でした。
資産家女性A子さん(享年97)は、全財産3千万円を家政婦の女性(68)に渡すという遺言を残し、2011年に死去。実娘2人が遺言に反して遺産を持ち去ったため、家政婦が返還を求めた裁判です。
家政婦は、中学卒業後50年以上にわたって資産家宅に住み込みで働いていました。他方、娘2人は、母親の介護を放棄して海外移住するなど、金の無心をくり返していたといいます。
■遺言は有効か?家政婦は着服したか?
争点は2つ。父親死亡時の遺産が10億であったのに今回の遺産は過少だとして家政婦の着服を疑う点と、遺言の有効性です。
娘は、遺言は家政婦が判断能力の低下していた母親に不正に作成させたものだと主張しました。
■裁判所の判断
裁判長は、娘2人が海外移住名目で3千万円を援助された際、「無心はこれが最後」とする念書を書いていたことや、海外移住を中断して同居する娘について、A子さんが「資産を奪われそうで外出できない」と周囲に語っていたことを認定。
さらに、「無心を繰り返すだけで、介護もせず移住した娘2人と違い、50年以上親身に仕えてくれた家政婦にA子さんが感謝し、遺産を渡したいと考えるのは自然だ」とし、遺言は適正なものと判断。着服を疑う娘の主張についても、「推認すらできない」と一蹴。
遺言を不合理とする娘の主張については、「自己の行いを省みないものだ」と批判し、全遺産の返還を命じた上、訴訟費用も全額娘側の負担としました。
娘側の控訴により裁判は続きますが、実の娘よりも家政婦を勝たせた判決として話題になっています。
■遺言の重要性
今回の事例は、遺言を残すことによってA子さんは自分の思いを果たすことができました。
相続対策が注目され、自分で遺言を作成するためのテキストなども目にします。
遺言の作成数は伸びていますが、後で有効性が争われたり、無効となることも。
せっかく作っても、後でトラブルの火種になってしまっては本末転倒。作成なさる際は、専門家に相談されることをお勧めいたします。
有効な遺言に基づく相続については一定の相続税を控除する「遺言控除」を新設しようという政府の動きもあり、遺言の注目度はますます高まっています。